ピアノソロ

竜の財産申告

The Dragon Who Declared His Hoard

この曲について

ヘ長調の12小節ブルースによる、重めのブギウギ・ピアノ曲です。物語は、三百年分の落とし物を宝として抱える竜が、村の役場へ財産の申告に来る話です。テーマの旋律は、麻袋をどさりと下ろすような下行と、♭3から長3度へスライドするクラッシュト・ノートでできています。左手のパターンは、コーラスごとにブギの8分、4分のウォーキング・ベース、ストップ・タイム、2声のパターンと変わります。弾くときは、スウィングの跳ねを軽く保ち、強拍のアクセントだけを重く置くと、竜のとぼけた重さが出ます。

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「竜の財産申告」の譜面の1ページ目

物語

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ミルナ村の役場には、窓口がひとつしかない。そこに座っているのは今年十七になったペタで、仕事は主に居眠りと、ときどき来る村人の書類に判子を押すことだった。

その朝、窓口の前の地面が揺れた。顔を上げると、窓いっぱいに金色の目玉がひとつあった。

「財産の申告に来た」

目玉の持ち主は、裏山に三百年住んでいる竜のグラドバルだった。窓から入るのは目玉だけなので、ペタは書類を持って外へ出た。

竜は山のような体を丸め、少し照れくさそうに鼻から煙を吐いた。

「領主から手紙が来たのだ。宝を持つ者は今年から申告せよ、と。わしは法を守る竜だ」

「立派です」とペタは言った。本当は、そんな竜は初めて見た。そもそも、竜を間近で見ること自体が初めてだった。

申告書には「財産の種類」「数量」「おおよその値打ち」の欄がある。ペタは羽ペンを構えた。

「では、宝の中身を教えてください」

「よかろう。驚くなよ」

竜は背中に括りつけてきた大きな麻袋を、どさりと地面に下ろした。三百年分の宝を一度に運べるはずはないから、代表的なものだけ持ってきたのだろうとペタは思った。ところが竜は胸を張った。

「これで全部だ」

袋の口から最初に転がり出たのは、瓶の蓋だった。次も瓶の蓋だった。その次は片方だけの靴下で、その次はたぶん馬の蹄鉄、その次は何かの鍵、そのまた次は割れた手鏡だった。

「……瓶の蓋」とペタは書いた。「数量は」

「四百十二個。色ごとに分けてある。緑は珍しいぞ」

「おおよその値打ちは」

竜は目を細め、ペタの顔をじっと見た。ペタは正直に、ゼロに近いと書いた。

竜の喉の奥で、ごろごろと雷のような音がした。

「待て。それは違う。竜の宝が安いはずがない」

「でも、金貨はありませんよね」

「金貨は重い。昔は少し持っていたが、寝返りを打つと背中に刺さるのでやめた」

「宝石は」

「眩しくて眠れぬ」

ペタはため息をつき、羽ペンで頭をかいた。このままでは、申告書の合計は銅貨三枚になる。税はかからない。普通なら喜ぶところだが、竜はまるで、ふられた若者のような顔をしていた。

「税がかからぬ竜など、竜ではない。村の子らに笑われる」

「誰にも言いませんよ」

「おぬしが黙っても、紙が言う。領主が読むのだろう」

困ったペタは、ひとつ質問をした。

「この靴下は、どこで手に入れたんですか」

竜の目が、急にやわらかくなった。

「百年前の冬だ。迷子の羊飼いの子が、わしの洞穴で一晩寝た。朝になって、片方を忘れていった。返そうと思って村まで飛んだら大騒ぎになってな。弓を射られて、結局返しそびれた」

「この鍵は」

「パン屋の初代が落とした。あの店の裏口の鍵だ。今もあの戸は閉まらぬままだろう」

ペタは知っていた。パン屋の裏口は、彼女が生まれる前からずっと紐で縛ってある。

「緑の瓶の蓋は」

「おぬしの祖母が娘のころ、山で葡萄酒を飲んで投げた。わしの鼻に当たった」

ペタは羽ペンを止めた。袋の中身は、ガラクタではなかった。三百年分の、村の落とし物だった。竜は全部覚えていて、返す機会をずっと待っていたのだ。

彼女は申告書の余白に、勝手に新しい欄を引いた。「思い出の値打ち」。そして、そこに大きく「計り知れず」と書いた。

「そんな欄はないぞ」と竜は言った。

「今つくりました。役場の窓口は私ひとりなので、私が決めていいんです」

本当はよくないが、ペタは知らん顔をした。

数週間後、領主の館から返事が届いた。計り知れない財産には計り知れない税をかけるべきだが、計り知れないので計算できない。よって代わりに、落とし物を持ち主へ返すことをもって納税とする――そう書いてあった。領主の書記もどうやら、居眠りが好きな人間らしかった。

それから竜は、週に一度、麻袋を下げて村に降りてくるようになった。パン屋の裏口には三百年ぶりに鍵がかかり、羊飼いの家の曾孫は、ひいじいさんの靴下を受け取って首をかしげた。片方しかない靴下を返されても困るのだが、竜があまりに誇らしげなので、誰も何も言わなかった。

袋は少しずつ軽くなった。最後に残った緑の瓶の蓋を、ペタは祖母の墓に置いた。竜は横で、器用に爪で鼻をかいた。

「これで宝は空っぽだ。来年の申告は、どうする」

「大丈夫です」とペタは言い、ポケットから自分の家の鍵を取り出して、竜の足もとにわざと落とした。

「あ、落としちゃった」

竜はしばらく黙っていたが、やがて大事そうに、それを爪の先でつまみ上げた。喉の奥で、今度は春の雷みたいな、うれしそうな音がした。

楽譜の詳細

演奏形態
ピアノソロ
楽器
ピアノ
ジャンル
ブルース / ブギウギ・ピアノ・ブルース
難易度
中級
演奏時間
約2分17秒
ページ数
3ページ
整理番号
AP-X54S2

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